作品コンセプト


私の作品は、表現媒体に、風や水、布の揺らめきなど、自然の中にある物理現象を使用します。物理現象は流体力学により様々な表情を見せます。風を受けてしなる植物、風によって変化する木漏れ日、雨の日に水滴によりできる波紋、窓硝子に流れる水滴、夕方の斜光、気泡そのものの動きや水面に起こる波の動きなどは、どれを見ていても素直に美しいと言えますし、その動きは楽しくもあり、見ていても飽きることはありません。これら自然現象の流体力学が持つ、人を引きつける力を作品の表現として使用することはできないだろうか。現象そのものの美しさ、素晴らしさを鑑賞者が作品を通して改めて認識することのできる作品は制作できないだろうか、というのが私の制作活動における研究のテーマです。

・再構築
表現として単に自然の物理現象を縮小し作品上に再現したのでは、自然そのものを見た方がより多くの感動を味わえるということになるでしょう。私の表現手法は、まず私自身が1つの自然の物理現象に対して何に感動し、どこに楽しさを感じたのかを自分なりに絞り込む作業があります。次に1作品の中でもこれらの感動要素を味わえるように見せ方の再構築をしていくのですが、このときに重要なことは、1つの自然の物理現象を目の前にした時と同等の感動が作品上にも存在しているかです。たとえ素材や見せ方が実物と大幅に違ったとしても、その方が自分が初めに感じた感動要素に近いとしたらそちらを選びます。作品としてなるべくシンプルになるように、不必要と思われる要素は全て無くします。これらの制作プロセスを経ることにより、その表現が作品として成立し、普段見過ごしがちな自然の物理現象の美しさやおもしろさを、鑑賞者が作品を通して体感することができるようになるのです。
また、感情要素を抽出して完成したこれらの作品は、鑑賞者の自然の物理現象に対してこれまで得てきた経験やその背後の記憶と感情的に繋がり、鑑賞者と作品との共鳴が心理レベルで生まれることが期待できます。

・時間軸
自然の現象を見た時に起こる感動は、時間的な動きの中にも隠されています。私は、これら自然の物理現象の美しさ、楽しさを表現するにあたって “時間軸”がとても重要だと考えています。例えば、水滴ひとつにしても、落下していく途中で光の入射角が観察者の目線との関係で最も美しく見える一瞬があり、時間的な動きが伴うからこそ美しくもあり楽しく感じるのです。そこで、作品の中に時間軸を取り入れることで、制作者が最も美しいと思い楽しいと感じる一瞬を作品として切り取ることが可能になるのです。

・時間軸表現のためのテクノロジー
時間軸を取り入れ作品に仕上げるには、そのためのメカニズムが必要になります。私の作品の大部分は高度なテクノロジーによって支えられています。
作品の表現媒体に自然の物理現象を使用するにあたり、鑑賞者が作品を見た時に、第一にその現象そのものの美しさが伝わるように、私は、鑑賞者に作品からテクノロジーを感じさせない工夫を随所にしています。作品制作のコンセプトは、技術披露ではなく、あくまでも自然が創り出す物理現象に対する美しさ、楽しさの追求だからです。

以上、3つのポイントを柱に私は作品を制作しています。

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