青の軌跡 / Tracks of Blue

作品に近づいてみてください。
あなたに向かって光のラインが流れます。
様々な模様も現れます。
作品内部にあるプロペラがおこす風により上面の布が浮き上がります。
内部の青い光が膨らんだ布に滲み込み、幻想的な雰囲気を創り出します。

 

2003年 3月
「インフォメーション・アートの想像力」展
2003年 5月
芸術科学会DiVA展 大賞受賞
2003年 12月
NHK BS デジタルスタジアム デジスタ・アウォード2003 ゴールデンミューズ(年間最優秀賞)
横浜賞
平成15年度文化庁メディア芸術祭 アート部門  奨励賞
2004年 5月
横浜赤レンガ倉庫1号館2F EXHIBITION C-DEPOT 2004 色 – color –
2004年 7月
Panasonic Center Digital Art Festival 東京 2004
2006年 8月
ヨコハマEIZONE デジスタ展 〜デジスタ・アウォード歴代受賞者作品展〜
2007年 1月
六本木国立新美術館 文化庁メディア芸術祭10周年企画展 日本の表現力
2007年 8月
文化庁メディア芸術祭上海展

作品寸法:
H 488 × W 990 × D 990(mm)
素材:
布 モーター アクリル 塩ビ 真鍮 鉄 木材 その他
制御:
PowerBook G4 赤外線センサ 制御装置
ソフトウエア:
MAX/MSP

作品解説

 本作品は前作「Window-25」を原案に、2003年3月に行われた「インフォメーション・アートの想像力」展に向け制作したインタラクティブアート作品です。
 作品上面には7列×7列、計49個の四角い窓が開いています。窓内部にはそれぞれ風が起こるようにプロペラが仕組まれています。49個のプロペラは、作品側面にある12個の赤外線センサからの反応で一定の規則を持って動くようコンピュータープログラムされています。
 窓の上全体にはオーガンジー(化学繊維)を被せてあり、プロペラが起こす風により窓周辺のオーガンジーが脹らむように出来ています。作品内部から出る青い光がプロペラで起こった風により脹らんだオーガンジーに反射し、窓枠周辺がその反射光で光ります。視覚上では窓枠に青い光りが滲み、周囲の窓よりも光っているように見えます。

 

動作に関して

 側面には一辺3カ所、計12カ所に赤外線センサがあります。作品に近づくと 観賞者のいる位置から光のラインが浮かび上がります。センサ1カ所につき光のラインは3パターン用意されています。また、その早さは緩やかに変化していきます。
 センサからの反応5回に対し一回、予め用意しておいた模様が描かれます。ランダムに点滅したり大きな輪を描いたりします。模様は全部で16パターン用意しています。
 観賞者がいなくなり反応が無くなったあと20秒ほどすると作品は呼吸をするかのように個々の窓がゆっくりとした点滅をし、待機状態に入ります。

形態、視覚効果ついて

 この作品は造形的な美しさ、おもしろさを追求した結果、逆台形をした造形を成しています。本作制作前に、CG、模型による実イメージの把握、観賞者が脇に立った時どのように作品が見えるか、窓の数はこの作品スケールではいくつが一番美しく見えるか、また構造的な問題も含め、数々のシュミレーションの上に成り立っています。
 逆台形にすることで、鑑賞者が作品を見たときに側面の赤外線センサを気づかせない効果や、直進だと30メートル程感知してしまうセンサを斜め下に落とすことで、作品から1メートル、鑑賞者の足元のみに反応させる効果等もあります。

 プロペラ等もすべて自作しています。窓枠の矩形に合った最良のかたちを選んでいます。
 作品上面にはオーガンジー(化学繊維)を二重に被せていてモワレを意図的に作っています。風が吹く位置のモワレ模様が微かに変化することで素材の持つ視覚的効果を楽しむ工夫が成されています。オーガンジーは下面が青、上面が白色をしています。

「青の軌跡」制作背景

 近年、デジタル技術の発展とともに、アートの世界でもデジタルの波が押し寄せています。表現の幅も毎年広がり驚かされるばかりです。デジタルはアートの世界でも多くの可能性を秘めています。
 しかし、デジタルは0と1、すなわちすべてが数値に置き換えられるということは周知の通りです。パソコンモニタもしかりです。RGB計、約1,760万色の表示は可能ですが限りはあります。
 アナログはどうでしょう。先日ある日本画の友人に会いました。彼はホームページ上では作品を公開したくないといいます。作品の持つ存在感、空気感、素材感、岩絵の具のもつザラザラ感、テクスチャまではモニタでは伝わらないといいます。まったくその通りだと思います。絵画などのアナログ表現は、デジタルでは不可能な無限の表現が可能だからです。
 今回の作品「青の軌跡」は”風”をモチーフにしています。上面から見た光の動きはプラズマディスプレイ等デジタルによる擬似的な表現は可能だと思います。しかしそこに存在する材質、空間、各プロペラから起こる風を切る音、また実際に風が起こり素材を浮かせ、反射した光を見せるという物理的な表現は、決してデジタルでは表現し切れません。風など自然の持つ現象は人が生まれてから常に体感しているものなので、実際の風を作品として視聴覚化するということは、風から感じる今までの記憶を作品とともに共有し、体感することが出来るということなのです。
 では何故パソコンや機械による制御にこだわるのか。それは、パソコンが美術表現においては道具であり、素材だからです。自然の現象が一番美しく見えるところを美術作品として表現する場合いろいろと手段はありますが、私にとっては機械による制御がその表現手法、すなわち「筆」であり「絵の具」なのです。

(2003年3月)